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僕の中の英雄

前説

 まずこのお話には三つの世界が登場します。
 一つは「天界」、二つは「地界」、三つは「冥界」です。
 これらの世界は互いに同時並行的に存在し、そして(やや変則的ではあるが)相互に繋がっています。
 またその位置関係は”零距離”――すなわちどんぴしゃに重なっています(つまり地界における富士山は天界、冥界のどちらにおいても同じ位置にある)。
 各世界は互いに干渉・影響しあう関係にありますが、これらの事実を知っているのはどの世界でもごく一部の者のみです。そして世界中の人々はこの者たちの思惑に無自覚の内に促されて日々を生きています。

 では次に各世界の簡単な特徴をば。

「天界」

 良い心の持ち主たちの世界です。
 そこに生きるものは人も鳥も牛も草もみんな澄んだ心の持ち主です。
 ですが、そうはいっても全員がお人好しの良い子ちゃんに留まる訳じゃありません。それぞれが良い人なりに考えをもって行動しているので、他者とぶつかり合うことだってあります。でもそういう時はなるだけ穏やかに解決するべく多数決や第三者の意見や判断を仰ぐなりします。

そんな「天界」に住む者たちの平均的な傾向は
“世話好きのお節介さん”です。

「冥界」

 その名のとおりくらーいくらーい世界です。
といってもお天気がいつも曇りという意味ではありません。
 雰囲気の話です。
 ですので、そこに住む者たちはほとんど悪い心の持ち主です。
 あくのそうくつです。
 ルールなんてあってなきがごとしです。
 しかし世界的には闇の住人たちの中でも特に力のつよーい五人の王様たちが支配することで何とか秩序は保てています。
 とはいっても最近では、その支配を窮屈に思う者たちが世を儚んだり、また王様たちもさらなる領土を獲得したいと思ったりだとかで他の世界に乗り込むことが「冥界」でのブームとなりつつあり、それにともなって秩序もまた無くなりつつあるのが現状です。

 そんな「冥界」に住む者たちの平均的な傾向は
“やんちゃ好きの無鉄砲さん”です。

「地界」

 平たく言えば普段私たちが見ている世界です。
 ニホンもあればアメリカだってあります。ヨーロッパなんかもいつかは旅行に行ってみたいものですね。
 話は少しそれましたけど、そんな普段我々が目にし、そして実際に生きている世界が「地界」です(とはいってもお話の中の「地界」は丸っきり現実世界と同じ訳ではありません。あくまで現実の世界とものすごく”似ている”世界なだけであって、それでこそフィクション万歳というものです)。
 この世界では良い人とか悪い人とか関係なくごっちゃになって生きています。
 ですが、この世界は運悪く「天界」と「冥界」の狭間に位置しているので、両者の影響をモロに受けます(反対にその両者は「地界」を通してでしか影響を一方の世界に及ぼせません)。そのため、どちらかの影響が濃くなれば、それだけ「地界」の情勢もその方向に偏ります。
 つまり、理科のBTB溶液に言う「酸黄、アル青、中緑」の
中緑的ポジションです
(理科の先生お元気ですか)。

そんな「地界」に住む者たちの平均的な傾向は
“己良ければ全て良しなクールさん”です。

 とりあえずざっと三つの世界のお話をしてきましたが、みんなついてこれていますか?……はい、ついてこれていなくても説明だけは続けますからもう少しだけ耐えてくださいね。

 このお話は基本的に「地界」での視点で進んでいきます。
 そうすると、「地界」に生きる人々にしてみれば、本来「地界」に生きる存在でない者たち(天界や冥界の者たちのことです)は異世界の存在として目に映ります(補足するなら、一般人の目にも映るぐらいの強大な”力”を発揮した場合の話です)。
 それは主として、異世界の者たちが本来住むべき世界ではない「地界」に赴くために、最低でも「自己の存在を保ち続ける」程度の”力”を発揮し続けなければならないことに起因します(この点はすでに本編の中のあるお話で少しだけ語られています)。
 したがって、「地界」の者たちの目には、自分たちの常識では到底測りきれない彼らが異常な存在として映る
――これがこのお話を理解する上での重要な鍵の一つです。

 また彼らは単に「地界」へ観光に来ている訳ではありません(まぁ中には単に観光で来ている者たちもいることはいるのですが)。
 彼らの目的は各々その名目は異なりますが、実質的には「地界」の覇権を手にすることです。
 何故そんなことをするのかというと、それは大きく分けて二つの理由があるからです。

 まず一つは、自分たちの住む世界が他の世界の影響・干渉を受けうるという点にあります。
 これは、何の対策も打たず他世界の為すがままに放置していると、いずれ自分の世界も他世界に飲まれてしまう危険があるという理由です。
 そのために、「地界」はいわば「天界」と「冥界」との”緩衝世界”という役割を担わされてきました。
 しかし、古来より「冥界」において他世界を侵略するという不穏な動きが絶えず起こったので、「天界」も止む無くその阻止に乗り出している
――そういう事情がこのお話の中にはあります。

 そして二つ目は、残念ながらここでは詳細は説明できないのですが、どうやらこの二つ目の理由には”世界の均衡”が関係しているという噂です。
 これは三世界のことを知るごく一部の者たちの中でもさらに一握りの者たちしかしらない事実だそうですが、そんなトップシークレットである事実は、賢明なる読者の皆様の手にかかればいとも簡単に分かる程度にはトップでもシークレットでもありません。

 前振りが長くなりましたが、ここでようやく本題に入ります。

 前述した通り、このお話は「地界」の視点で進みます。
 そして、異世界の者たちは常識外の存在として登場します。
 この者たちはおおむね「能力者」や「異世界人」とかいった言葉で表現されますが、彼らには、「地界」を支配している理(ことわり)を改変して自分たちの存在を無理やり正当化するだけの”力”があるので、その気になれば正当化以上の改変をもやってのけることができます。
 はい、そうです。ここで魔法がでてきます。
 とはいっても、能力者が起こす諸現象をすべて「魔法」という概念で説明しようとする試みは、「地界」ではすでに時代遅れの説となっています。
 現在ではそんな形式的概括的分類をするのではなく、もっと個々具体的な現象に焦点を当てて研究・分類していこうとする「実質的類型説」が主流となっています(何だかむずかしいですね)。
 そして、その結果として、現在ではそれまで「魔法」とよばれていた諸現象の大部分がその性質や方法などによって体系的に分類され、高度な「現象」として「地界」の者に理解されつつあります。
 そしてさらに、「地界」の者でもそれら諸現象を使役する”力”(=能力)を扱う方法があることも段々と明らかになりつつあるという事情もまた、この時代の一つの特徴です。

まとめ

 これまでざっとお伝えした通り、このお話では大きく分けて三つの勢力が各自の利権を求めて絶えず争っています。
 「地界」の中だけでも種々の紛争が起こっているというのに、各国の首脳にしてみれば本当に迷惑極まりない話です。
 ただ、唯一の救いと言えるのが、そんな剣呑な状況にあっても一途に「地界」を護ろうとする勢力が一定数存在している点です。
 彼らは世界大戦の最中にあっても、他世界の「地界」への侵攻・介入を排し、「地界」の中立(中には独立を目指す勢力もありますが)を掲げて、「天界」及び「冥界」と日夜戦っています。

 このお話は、そうした「地界」を護ろうとする者たちの一人である、ニホン在住の普通の男子学生と「天界人」であり彼の後見人パートナーである青年が繰り広げる闘争の記録です。

(以上でこの説明は終わりです。お疲れ様でした)