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 きみは 何度いがの波に揉まれようと 善意を振りまくことを止めず その身が無惨に成果てようとも 決して笑顔を絶やそうとしない 
 ああ 人は誰もきみを褒め称えはしないが わたしだけは 最期まできみを称えよう きみなしでは世界は成り立たず きみなしでは人は傷つけ合う そして我ら愚かなる民はただ 何にも気づくことなく崩壊していく


クリアーテルの詩
「世界」 第16章 3節 
それは記録を記憶する記録室
(これらの書物は三世界の各地から収集されたものである)
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人は皆生まれながらにして平等である。
親を選べず、環境を選べず、運命を選べず、自分を選べず。
そうしてただただ掌から流れ落ちる砂を呆然と見つめ続けることでしかこの世界での実在を実感する事ができない。
「だけど、しかし」
かのように運命に抗おうとする者が数年に一人の割合で発生する。それは、恐ろしいまでの異端であり、悲劇であり、危機である。
そのような有事に際して我ら人間は非情なまでの決意と英断によって彼らを排除しなければならない。
そうして我ら人間は再び流れ行く砂の鑑賞に没頭し続ける事ができる。
人は皆生まれながらにして平等である。


エディン・ディラレルト
「秩序」
(直系の弟子であるミラーにより復元)


抗える運命などない。

人はみな全て名をもつ。

名のない人は存在しない。



作者不詳
題名不詳
出庫
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『答えは一つではない』という事を知って初めて僕の世界は始まったんだ。


ヒュディング・ミュラート
「カルティナ州連続殺人事件被疑者取調べ調書記録」より

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例えば、生まれてから現在に至るまで人として最低限の事しか教わらなかった二人の双子の少年を考えてみたまえ。
次に、君はその子の親としてこれからその少年たちに様々な事を教えていく事になったとする。
ではここで質問だ。
将来その子たちの片方は国家反逆者に、もう片方は国王直属の護衛兵士に仕上げるとするならば、君は一体何を教えていくかね。


アーシュベルト・ガープ・シベルア
「古典的"概念の装備論"における再考察の試み 王立大学 シベルア教授生誕80周年記念対談集」 
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故意マタハ過失ニヨリテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハコレニ因リテ生ジタル損害ヲ賠償スル責ニ任ズ




「日本国民法第七〇九条 一般不法行為責任」

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 ある時私は自分と周囲の存在とを比較して考えた。
 私以外の存在には特に指定をせず、飽くまで「私」と「それ以外」のものが思考の対象であった。
 「私と私の住む全てを構成する世界とは」「あの人間は私と同じ年齢に見えるが、果たして本当に私が死を迎える時まで彼は存在しているのだろうか」「あの木は書物によれば樹齢三百を超えるそうだが、私は生きてせいぜい七十、所詮人という制約の下で生きなければならないのだ」……。
 このように私はひたすら胸の内より湧き出でるこの奇妙な疑問に対し日夜思索を重ねた。いつ頃か、それは答えの決して見つからぬ永遠の疑問のように感じられるようになった。そして、やがてその行為はすっかり終わることのない思考遊びとして私の中に定着してしまっていた。
 しかし、それは何の前触れもなく起こった。


著者不詳
「僕の記録」と題された古ぼけたルーズリーフファイルより「電車 No.1」
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今君が見ている世界は、すでに終わっている。

カーネリー・コロンゾ
「無目的からの脱出」
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 これだけは決して忘れてはいけない――君が生きている世界は生物無生物、有機物無機物、存在すら皆無に近いような細菌から全宇宙まで、ありとあらゆる存在の取った選択がそれぞれ交錯した一点であり、それは全存在の妥協点に過ぎない。我々人間はそんな理の中のごく一部であるこの星の中で単に全存在の覇者であるかのごとく振舞えているだけ。そしてそのような世界でさえ大多数の人間の思惑よりも、極めて一部の人間達のそれが幅を利かせて形成されている。つまり、我々が呼ぶ世界とは、まったく無主無目的な作用が渦巻く中で、辛うじて自分が存続できるよう妥協点にほんの少し手を加えた結果に過ぎないのであり、そしてそれはいつか必ず将来の妥協点によって消されるハリボテの虚構である事を――。

セフェル・クライド
「理性的錯誤」
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 有能はそれをすることができる
 無能はそれをしないか若しくはできない
 
 故にその苦しみを計り知る事のできない二人は、今日も道行く我らを嘲笑う

アシュフォード・セン・ヤンバイカ
「平均的な凡人の末路」
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 「夢を諦めるな」という言葉は
  どこか「狂信」に似ている。

 「己を信じろ」という言葉は
  どこか「怯え」に似ている。

「他人を愛せ」という言葉は
 どこか「強制」に似ている。

ヒガシ・ミツル
遺稿「客席からの質問」
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  その者          に守り         一月 

 にて     振るい給う。ものどもいとおののきて倭に進むことかなはず。      倭 国王   献上す。


作者不詳
古記「十二国臣護国伝其十二巻」
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この世に存在する数多の真実のうちの一つにこういうものがある。
「始まりは放っておいても必ず終わるが、終わりは自ら始まりたがらない」
さて、今君はどれだけの"始まり"と共に歩み、そしてどれだけの"終わり"と向き合っているのだろうか
クラーレン・スミカ
「冷笑」
A.D2004
それは、

許され難き断罪、

世界を保つための愚考、

消え行く命を守るために、

幾度も行使される一振りの剣。

始原語、定義
「平穏の担い手」