夕焼けが次第に遠のいていく帰り道――。 少年と彼のおばあちゃんぐらいの女性が手をつないで歩いていました。 彼は女性に向かって言います。 「アカギせんせい、僕ね今日はおだくんと、ともきくんと、りさちゃんとでね、ひみつきちつくったんだ」 それは今日のおやつの時間の出来事でした。少年はいつもよりだいぶ早くにおやつを食べたあと、そそくさと外へ出て行ったのでした。 そして結局みんなが帰る頃になって、少年達が教室に帰ってきたことをアカギ先生と呼ばれた女性は思い出していました。 「そう、それは良かったですね。それはいったい、どんな基地なのかしら」 そう言って女性は静かに微笑みました。 少年はうれしそうにお友達の子と泥だらけになってはしゃいだ時間の事を女性に話します。 女性はその度に彼の笑顔を包み込むような優しいまなざしで彼の話を聴いていました。 ――その時、 夕方を告げる音楽が近くの小学校から聴こえてきました。 すると少年は、なぜか話もそこそこに急に空を見上げました。彼の瞳にいつの間にか輝きだした星々が映ります。 「せんせい」 「なんですか。ゆうくん」 「あのね、こうしてせんせいとぼくが歩いている1秒のあいだにもね、せかい中の人たちの何百人の人が生まれて、何百人の人がしんでいるんだよね」 それを聞いた女性はほんの少し間をおいて、そうですね、と答えました。 少年は、それってほんとにすごいことだよね、とぽつりと呟いたあと、 「今日ぼくがあそんでいておもったんだ。ぼくはともきくんやりさちゃんやおだくんたちが大好きだし、ほかのみんなも好きだけど、みんないつかはしんじゃうんだよね」 女性は無言でした。 「それってものすごくいやだけど、でも無くすことはできないんでしょ?」 少年はアカギ先生を見ました。先生は少し困っているような顔でしたが、構わず話を続けます。 「だったら、ぼくは少しでもたくさんともきくんたちとあそべるように、いろいろがんばろうって思ったんだ。たとえばね、りさちゃんが病気になったら、ぼくがお医者さんのところまで連れて行ってあげるんだ。たいきくんがわるいやつにいじめられてたら、ぼくがたすけに行くんだ」 女性は相変わらず黙ったままでしたが、ふとある事に気づきました。それは熱心に語り続ける彼の瞳がうっすらと茜色になっていた事です。女性は少々驚きましたが、すぐに夕日の色が映りこんでいるんだと分かりました。ですが、少年はそんな事に気づく訳もありません。 「ゆうくんは優しいね。先生はそんなゆうくんが大好きですよ」 陽だまりのような口調でそう言いました。 少年はようやく微笑みましたが、それっきり二人は黙ったままでした。
女性も少年にさようならを言いました。 そして女性が少しずつ遠のいていくのをじっと見ていた少年は最後に大きな声で一言だけ叫びます。 「せんせい、またあしたね」 戻る
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