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「やりましたかね」
全身を緑の迷彩服で覆った壮年の男が隣の仮設テーブルで優雅に紅茶を愉しんでいるマダムに向けて訊ねた。
マダムはそうですねぇ、と手に持っていたティーカップを置き、一呼吸置いて、
「まだですね」
と微笑みながら答えた。
「どうやら相手の方たちは私達の想像以上にしつこいようですね」
その微笑みは絶やさず静かに分析する声。
 あの集中砲火を行ってまだ手緩いとは……。きのこの傘の様なグリーンのヘルメットを被る壮年の男はつくづく能力者という存在に恐怖しながらも、自らの職務を遂行するために次弾装填の命令を出す。がしかし、それはすぐに遮られた。
「隊長さん、おそらく次を撃っても大した効果は期待できないでしょう。目標は何か……私達が聞いていた人物とはやや違うようです。そう……犯罪者の匂いがしないというのかしら。不快な感情が今ひとつ感じられないのです」
 小隊長は何を言っているのかいまいち理解できないままその話を聞いていた。そもそも私の命令を遮った答えになっていないじゃないかと軽く憤る。
 マダムは急に夜の寒さを思い出したかのようにティーカップを取り、まだ薄く湯気の立つ黄金色の液体を飲んだ。ふぅ、と白い息を吐き出した後、
「過剰な攻撃はかえって相手の身を固めかねません。ここはもう一度様子を探ってみてはいかがでしょう」
静かな笑みを向けた。
 この方は……。自衛隊陸軍所属の小隊長といえどもこの笑みにはどうも敵わなかった。

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