「……以上、捜索の末発見したのは二名。内、生存していたのは二十代後半の男性一名。すでに死亡していたのは二十代前半とみられる女性。その他目撃者等はおらず、事件の真相を知りえるのは重傷を負っている二十代後半の男性のみであると思われます。なお、森のニ、三箇所に異能戦が行われたと思しき痕跡あり。夜が明け次第県警による検証が行われる予定であります」
 聞いているようで寝ているに違いないとは確信していたが、自衛隊陸軍第七師団第十二大隊所属第三十二小隊隊長兼現場指揮官は形式上優雅に座っている隣の特別階級扱いたる本条きみ子士官に報告をしていた。二秒の沈黙。やはり寝ていやがる。
 だが隊長の推測は誤っていた。きみ子士官はゆっくりと目を開け微笑み返したのである。以下は彼女の言。
「やられましたね」
 長年軍隊組織に身を置いていた隊長としては判断理由または根拠の提示が為されて当然との思考が染み付いていた。それゆえにこのきみ子士官の漠然とした言い方が非常に不愉快であった。内心怒りを抑えつつ再度聞き直す。
「と言いますと」
「相手は私の感知能力を欺き私達に無用な捜索を行わせたばかりか、自分たちの用まで終えたみたいです。その理由として、先ほど隊長さんが報告してくださった内容は私の過去見てきた能力者犯罪の終了後に見られる特徴と非常に酷似しています。詳細はまた後ほど書類にて提出しますが、敵の方が一枚上手だったとしか言えませんね」
 上品な笑みを浮かべ扇子を仰ぐマダム。何が面白いのか全く理解のできない隊長。しばらく後に警察と交代に部隊は引き上げ任務は形の上では終了したが、隊長としてはまた胃に穴が開いた気分にならざるを得なかった。

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