(携帯、だ)

(はぁ?)

自分の予想していた類の答えとあまりにギャップもあったせいでこいつが何を言っているのか一瞬判断がつかなかった。

(携帯って……。あのね、いいですか龍王さん。そもそも携帯電話という物はですね本来離れている場所に居る相手と会話するために作られた物であって、闘いの武器になる物やないんですよ。わかります?)

俺が精一杯分かり易い説明をしてあげると、それは言われなくても分かっている、と一言前置きして、

(相手の持っている携帯はただの携帯だ。だが、それだから厄介なのだ。奴は恐らく頭の切れる奴だ。そうでなければもの凄く意地の悪い奴だ。というのもまず我々にその存在を特定されないよう奴は敢えて能力を使っていない。そして次に我々をここにまんまとおびき寄せ通報している。「ここに闇の者が居ます!」とか何とか言ってな。警察にさえ通報すれば、あとは鎮圧部隊なり何なりが出てきて自らが手を下さなくても獲物を始末できる、これがそいつの算段なんだろう。自衛隊まで来たという事は特S級の指名手配犯の名でもだした……という所だろうな。ともかく直に攻撃してきているのが何も知らない人間相手なのが本当に厄介だ。ともかくこいつらを何とかしないとどうしようもないぞ)

言っている事は一応理解できたが、俺はそのあまりの突拍子の無い話に呆れていた。俺達をここまでおびき寄せておいて?携帯でハメたぁ?おいおいそんな手口が通じるんなら今頃自衛隊は人手不足でてんやわんやになってるぞ。それにそんな中学生でも思いつくような手口が乱用されないようにわざわざ能力者を県警に置いて感知させたり、それでも分からなかったら各都道府県警察本部内部に設置されている特殊先行部隊S.U.N.D.b(The search unit who nips a darkness in the bud <闇犯罪を未然に防止する捜索部隊>だっけ?)を出動させて確認させてるんだろう?だったら例えその手口で俺達がハメられても、本人確認さえすればすぐ済む話だし、だいだい今ここにいて砲撃を受けてる意味がわからない。俺達ならこんな状況さっさと脱出できるのに……。

 俺はその疑問を龍王にぶつけた。

龍王の答えは簡単だった。

(俺達がもし、最近世間を騒がせている連続殺人遺棄事件の犯人だと通報されたとしたら?さっきも言っただろう。特S級の指名手配犯の名でもだした……という所だろう、と。実はお前が起きたら聞こうと思っていたんだが、私がここへ来る途中に二、三墓らしきものをみた。それと女の死体だ。立ち寄って確認したかったのだが、何せ急を要していたからな……。確認せずに来てしまったのだ。今改めて聞くが、墓はともかくとしてあの死体は何だ?)

死体……?ああ、もしかしたら俺が最初現場に駆けつけた時に見たあの女の人の事なのかもしれない。それよりまさか俺達があの連続殺人遺棄事件の犯人だぁ!?まさか……。

(おい、ショックを受けている場合じゃないんだ。ほらまたそろそろ次の砲撃が来るぞ。それもまだ飽くまで可能性の話だ。墓が作ってあった辺りかなりゼロに近い可能性だがな。

だから何か心当たりを言ってくれ。それが何かの打開策になるかも知れん)

 俺はとにかく覚えている部分をできるだけ要約して説明した。その間にも木々がざわめいている。あ、そういえば事態が事態やったから今まで気付かなかったけどここは森の中か。ん?森の中って……俺確か何もない野原に居たんじゃなかったっけ?

(なるほど大体は掴んだ。それはどうやら夢魔にやられたようだな。あるいは夢を攻撃する方法を使われた、とか。とにかくその話を総合するにお前は俺をおびき出すための餌として使われたという事はこれで間違いないと分かった。よし、なら……)

 そこまで言って龍王はまた綺麗な夜空を見据えた。そしてそこにはまたぽっと五個か六個の明かりの球が浮かび、こっちへ向かって大きくなってくる。

(しまった!また……)

俺は思わず叫んでしまった。そう音がまだ聞こえない状態だったのだ。砲撃の最初に聞こえるあの風切り音が聞こえなかった分、目で見た光を通して初めてそれを認識したのだ。事実認識が少し遅れた分身構えもできてなかった。が、それに比べて龍王は違った。あいつは空をみつめたまま突如数発の光弾を撃ち放つとそれと同時に巨大な防御結界を展開した。

 放たれた光弾はまるで磁力で引き合うかのように飛んできた砲弾それぞれに対して正確に直撃。爆発。凄まじい熱風と衝撃が俺達のいる地面に向かって叩きつけられる。

 今度こそ不意打ちではなかったこの俺の取った行動は……奇しくも肩をすくめ両手を耳にあてがうといった前回と同じ。このビビリな性格に心底嫌気。

(正確には嫌気がさすだ。正しい日本語ぐらい使えんのか、お前は)

ぐ、しまった最後の部分はあいつに伝わってしまっていたらしい。何たる失態ッ!

(やかましい!それよりさっきやたら長い詠唱してたのはこのシールドを構築・展開するためやったんですか。で、それは)

(この森を守るために使用しているのだ。何の因果があってこの森が破壊されなければならない。この砲撃は私達に向けられているのであってこの木々が殺される事は無い)

その顔はどこまでも毅然としていて頼もしく、でもその瞳の奥には身の危険が迫れば平気で必要以上の破壊をも厭わない人間に対してのどこか深い怒りが燻ぶっているようにも見えた。

(龍王……)

何故かはわからないけど俺はそれ以上物が言えなくなった。それは同じ人間として向けられた龍王の瞳に圧倒されたからなのかも知れない。

(ともかく今こうして私達は二人になった。それは単純に言うと二倍の戦闘力を有したという事になる。そこでだ、私はここでこうして囮兼周辺の防護しているからお前はその間敵を探せ。そして白黒はっきりつけろ。それが今取れる最善の策だろう)

(でも俺の耳は?それに自衛隊が俺達の位置を正確に掴んで砲撃してくるって事は少なくともその存在を感知する能力者はいてるとみて間違いないやろ?てことは俺が移動したらその事もばれてしまうやんか)

俺の指摘をさも見越していたぞ、フン。とでも言わんかのごとくすまし顔で俺を見た後、

(自分の耳は自分で何とかしろ。それとお前の存在ぐらいなら誤魔化しきれる。いいかこれから私の言うことをよく聞けよ……)

と俺に耳打ちしてきた。




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